興市場に上場する企業の社長にとっては、上場は人生最大のイベントで、ある意味ゴールだ。でも大多数の社長は、上場なんて初めての体験になるよな。なので、上場して初値が付いて、東証でカラーンカラーンと鐘を鳴らされた瞬間に舞い上がることになる

上場の準備は大体1年半ほど前から始まるよな。誰が音頭をとるかはまちまちだが、取引銀行が一声を!というパターンが多いな。また自発的な上場なら、証券会社に相談するだろうし、そもそもその可能性がある企業にはVCが必ず声をかけるからな。いずれにしても、社長が上場したいかどうかが一番重要なのは言うまでもなし。
それで、とりあえず銀行、証券、場合によってはVCが集まって、初回の顔合わせとなる。これがだいたい1年半前だ。その席では社長の意向を確認して、上場可能かどうかざっと判断されるんだけど、まずよほどのことがない限り「ダメ出し」はない。なぜなら、上場できるか否かは、「値が付くかどうか」の1点だけだからだ。IT企業の場合は人気化する可能性が多いので、まず100%GO!バイオは証券会社次第。他の業種でも直近決算が赤字でなければ99%GOだね。東証マザーズはもっともイージーに上場が可能で、ここ数年は赤字上場もOKになった。次にJQグロース。ここもかなりイージー。というか、マザーズとJQグロースは、売上規模を問題にしないからね。不動産ファンドとか社員5人で上場なんて例もあるくらいだからな。

まぁ、あまりに小さいと上場は物理的に不可能。なぜなら上場に必要な株式を発行出来ないからだ。また上場のために資本金だけやたら大きくするのも、過剰資本で審査にはねられる。なので、売上の目安は(俺的には)最低5~10億(年間)は必要じゃないかと思ってるけどね。それでも、大抵の場合は上場出来ちゃうんだよな。

初顔合わせから何度かの打ち合わせの後、まずは主幹事証券を選ぶことになる。そして選ばれた主幹事証券は、上場申請が承認されるか否かをまず審査するんだよな。で、足りない部分がある場合には、寄ってたかってお化粧をすることになるんだよ。資本金は増資、売上は××、利益は●●といった具合に当決算期のお化粧(粉飾じゃないよ)をやるんだよ。上場には前年の決算内容が重要な審査対象だから、だから1年半前に準備が始まるんだよな。

1~2カ月すると今度は儲け話になる。まず出資比率をああでもない、こうでもない、とやりながら決める。これはもうはっきり言って上場益の分捕り合戦だよ。現在の出資比率を確認し、増資するんだよ。ここが一番美味しい部分なので、もうエゴ丸出しでしかも有る程度紳士的に事が進む。そんなこと言ったて1億も2億も預金を持ってる社長なんかいないから、そこはほれ、銀行から融資を受けて増資しちゃうわけ。つまり、資本金2千万の会社を増資で3億円にする。社長の持ち分が1.5億円なら足らない分を借りちゃうわけね。あとは証券が売り株数を決める。その時点で大体公募株数が出て、前年決算(当期決算)から株価を想定する。で、まぁ、資本金は5億程度がいいんじゃないですか?ってな意見を言うわけ。となると、5億-1.5億の3.5億が公募VCの出資分になるんだよ。まぁ役員とかが株主の場合もあるので、それは一応社長の持ち分として計算しておくってことで。

上場は関係者全員を潤わせるんだよ。銀行は融資の返済が期待できるし、下手すると今は公募を募集することも出来ちゃうし。今後の取引もかなり有利になるよ。VCはキャピタルゲイン(上場益)一本狙い!証券は高額な手数料(ドル箱)ゲット。社長はキャピタルゲイン&公募資金。全部が濡れ手に粟だもんな。それで財務監査を監査法人に切り替えて財務監査(これがまた高額だ!)。それに当該年度の決算が終了した時点で監査法人が意見書を付け、目論見書とともに東証の希望市場へ申請する。これが約6カ月前。それで、よほどの事故や事件が無い限り、カラーンカラーンとなるわけよ。

上場すると暫くはメディアの取材とか、いろいろあって社長はちょっとした芸能人気分。でもその間に大抵の企業は現業がかなり疎かになってるわけよ。IT、ネット系とかは上場の宣伝効果でここを比較的楽にスルー出来るんだが、製造業とか小売とか、結構ヤバイ時期。ここが乗り切れない企業と、上手くプラスに転化できる企業とで、その後の株価が大きく異なってくるよな。極めて大事なのは上場1年目。ここで、予想を上まわる数字を叩き出せれば、まず安泰と見てもいい。ところが、好事魔多しっていうから、つまずくことが多いんだよな。

まぁ、それでもご祝儀相場で、IPOは必ず1相場作るでしょ。どんな企業でも必ずあるよな。で、この時に、外資から電話(または営業)が有るんだよ。「社長、株式は金利が付きません。でも市場で売却もできませんからね。社長が売ったとなると株価は暴落しますからね。どうですか?うちに貸し株をしていただけませんか?金利は5%/年支払います。社長の持ち分の半分をお貸しいただくとして、社長には年間●円お支払いできますよ。株価?ご心配なく。株価には中立ですから。」こんな甘い言葉につい乗せられちゃうのが、アホな社長ってことだよ。社長は社長で、「上場すれば●億円の資産が出来る」なんて夢見心地だったのに、実際は忙しくなっただけで収入は全く変わらんし・・・。何のための上場だったんだ!って気持ちでいるから、二つ返事で「分かりました!」となっちゃうよな。

でも、貸し株をやらかしたら最後、株価はぐんぐん下落して底値になると梃子でも動かなくなる。こうなると、ネットに罵詈雑言はかかれ、行く先々で嫌みを言われ・・・。気力を無くすんだよ。それで鳴り物入りで上場した企業が5年、10年と低迷するんだよ。そんな矢先、資金も枯渇してきてここらで新規事業を!なんて思っても先立つものが無い。と、そんな愚痴めいた相談を証券にしたりしているうちに、「社債発行しては?」なんて持ちかけられる。もちろん、業績がぱっとしないと銀行も腰が引けてるしな。だいいち、いまさら銀行に頭下げて融資なんぞはお願いしたくないっていうこともあるだろな。何せ、腐っても上場企業だからな。そうするとまたぞろハイエナが寄ってくる。「社長担保もいらないで簡単にご希望の資金を調達できますよ」なんて言われると、社長はまた新規上場企業の社長気分に戻るんだよ。「社長、新株予約権付き社債を発行してください。全額うちで即日引き受けします。希薄化するので株価は多少影響を受けますが、な~に、時期を見計らってIRを2~3発出せば、すぐに急騰ですから。あっその際に社長の持ち分を貸し株願います。株価を公平に保つための売り玉ですから、ご安心ください」

何と言っても上場メリットは、無担保でバシバシ資金調達出来ることだ!なんて勘違いをした社長こそは、大バカ者なんだけどな。ホイホイと条件を飲んじゃって、資金調達。まぁ、上手く行けばいいけれど、商売というのはそんなに甘いもんじゃないしな。気が付くと、ますます自社の株価はどうにもならなくなってるんだよ。それでも、社長個人にしてみれば、貸し株料で相変わらず大金が入ってくる。HPや短信には、株主利益を拡大するよう頑張ります!って書いておけばなんとかなるって・・・・。

そんな上場企業、小型株・・・ジャブジャブあるよな。はじめから金融知識なんかこれっぽちもない社長ばかりだから、仕方ないって言えば仕方ないが、そんな株を買って痛い目みる個人投資家は(俺も含めて)たまらんよな。

おいっ社長!少しは勉強しろよ!